大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和39年(カ)18号 判決 1965年4月10日

再審原告 株式会社 佐藤工機店

右代表者代表取締役 佐藤東三

右訴訟代理人弁護士 鰐川省三

再審被告 瀬下進

主文

本件再審の訴を却下する。

再審訴訟費用は再審原告の負担とする

事実

一、再審原告の申立

再審原告訴訟代理人は左記の判決を求めた。

(一)、東京地方裁判所が昭和三八年一〇月三一日同庁同年(ワ)第六四四六号設計請負代金請求事件につき言渡した判決を取消す。

(二)、再審被告の請求を棄却する。

(三)、訴訟費用は再審被告の負担とする。

二、再審被告の申立

再審被告は主文同旨の判決を求めた。

三、再審原告の再審事由

再審原告訴訟代理人は、再審事由として次のとおり述べた。

(一)、東京地方裁判所は、再審被告が再審原告に対し左記請求原因に基き金四〇万円およびその遅延損害金の支払を求めた同庁昭和三八年(ワ)第六四四六号設計請負代金請求事件(以下、甲事件という)について、同年一〇月三一日再審被告の請求を認容する旨の判決を言渡し、右判決は控訴期間の経過により同年一二月一一日確定した。

(1)、再審被告は昭和三六年二月二八日再審原告との間において、爾後継続的に再審被告が再審原告のためその注文先より発注にかかる冷暖房および冷蔵装置等につき設計を引受けることとし、その工事見積額の三割を再審原告の利潤と見積り、右利潤の更に三割を再審被告の前記設計代金とする旨の請負契約を締結した。

(2)、再審被告は、右契約に基いて同年三月一日以降同年五月末日まで再審原告のため一〇件余の設計をなし、その工事見積額は合計金一〇、七五三、〇五二円に達した。

(3)、よって、再審被告は、再審原告に対し、前記歩合によって算出した右設計代金九六七、七七五円の内金四〇万円、およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和三八年八月二三日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)、ところが、これよりさき東京地方裁判所は、同じく再審被告が再審原告に対し、左記請求原因に基き金四〇万円およびその遅延損害金の支払を求めた同庁昭和三七年(ワ)第一八〇三号請負代金請求事件(以下、乙事件という)について再審被告の請求を棄却する旨の判決を言渡し、再審被告において控訴した(東京高等裁判所同年(ネ)第二八七一号)が、昭和三八年七月一〇日控訴棄却の判決が言渡され、同判決は上告期間の経過により既に甲事件判決確定前に確定している。

(1)、再審被告は昭和三六年二月二〇日再審原告との間において、再審被告が再審原告から空気調和設備、製氷冷蔵設備および除塵換気乾燥設備等の工事設計を請負い、これを完成して設計書を再審原告に引渡したときは、再審原告は再審被告に対し報酬として設計見積に計上した利益金の三〇%を支払う旨の契約を締結した。

(2)、再審被告は右契約に基いて同年三月一日から同年四月末日までの間に一一回に亘り再審原告から工事設計を請負い、これを完成して設計書を再審原告に引渡した。

(3)、しかして、右設計に基く工事見積原価は総額金九、五九一、〇五二円で、その見積利益金は各見積原価の三〇%として総額金二、八七七、三一五円と計上されている。

(4)、よって、再審被告は、再審原告に対し、右見積利益金の三〇%にあたる前記設計請負報酬金八六三、一九五円の内、金四〇万円およびこれに対する訴状送達の日の翌日たる昭和三七年三月二一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(三)、ところで、前記甲、乙両事件における請求は、右にみたとおり、いずれも再審被告の再審原告に対する同一の設計請負契約(以下、本件請負契約という)に基く同一の報酬請求であるから、再審被告の請求を認容した甲事件の判決は、既に右判決確定前に再審被告の請求を棄却した乙事件の確定判決と牴触するものである。

(四)、よって民事訴訟法第四二〇条第一項第一〇号の再審事由に該当するものとして本件再審の訴に及んだ。

四、再審事由に対する再審被告の答弁

再審被告は、再審事由について、次のとおり答弁した。

(一)、再審事由(一)、(二)の各事実は認める。

(二)、再審事由の(三)の事実のうち、甲、乙両事件における再審被告の各請求が、いずれも本件請負契約代金の一部請求であることは認めるが、その余は争う。

甲事件における請求は、乙事件における請求の残部の請求であるから、乙事件についての判決の既判力は、その残部請求たる甲事件にまで及ぶものではない。したがって、甲事件の判決は乙事件の確定判決とは牴触せず、再審原告主張の事実は再審事由に該らない。

理由

東京地方裁判所が昭和三八年一〇月三一日甲事件につき再審被告の請求認容の判決を言渡し、同判決は同年一二月一一日確定したが、これよりさき同庁は昭和三七年一一月二五日乙事件につき再審被告の請求を棄却する旨の判決を言渡し、同判決は甲事件の判決の確定前既に確定していたこと、および甲、乙両事件の各請求はいずれも同一の設計請負契約代金(但し乙事件においては金八六三、一九五円として計上されたが、甲事件においては再計算の結果金九六七、七七五円とされた)の一部たる金四〇万円の請求であることは、当事者間に争がない。

そこで、次に右両事件の判決がはたして牴触するか否かについて判断するにおよそ一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨明示して訴が提起された場合には、たとえ裁判所が右債権の一部の請求につき判断するにあたり、同債権の全部の存否につき審理判断しなければならないとしても、それはあくまで理由中において判断されるにとどまり、原告が裁判所に対し主文において判断すべきことを求めているのは、右債権の一部の存否に過ぎないというべきであるから、訴訟物となって既判力が生ずるのは右債権の一部の請求と解するのが相当である。このことは単に一個の債権の一部請求にとどまらず、二個以上の債権を併合し、個々に特定することなくその総額の一部請求をなす場合にもその理を異にしない。

とすれば乙事件における訴訟物は、本件請負契約代金の一部である金四〇万円およびこれに対する遅延損害金の請求であるのに対し、甲事件における訴訟物は同請負契約代金のうち、右請求部分の残部の一部である金四〇万円およびこれに対する遅延損害金の請求であって、それぞれ別個のものということができるから、乙事件につき再審被告の請求を棄却した判決が確定した後に、甲事件につき再審被告の請求を認容する判決を言渡したとしても、右判決は乙事件の前記判決の既判力とは牴触しないものというべきである。

しからば再審原告の本件再審の訴はその要件を欠くこととなるから、不適法としてこれを却下すべきである。よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古山宏 裁判官 中田四郎 加藤和夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例